水の革命
世界中で水問題が深刻化する中、水使用及び食料生産に起因する大きな環境負荷を他国につけまわしている食糧輸入国、そして自給率低下を容認している日本の罪深さを認識しなければならない事態になっています。
ということで、今回は、水の危機とうことで、本の紹介です。
水の革命
イアン・カルダー(ニューキャッスル大学土地利用水資源研究センター所長)[著]
蔵治光一郎+林裕美子[監訳]
3000円+税 A5判 上製 288頁 2008年1月発行 ISBN978-4-8067-1359-3
2008年1月31日発売
「緑の革命」から「水〈青〉の革命」へ。
世界の水危機を乗り越えるために、水資源・水害・森林・流域圏を統合的に管理する新しい理念と実践について詳説。
「水〈青〉の革命」とは……
土地利用、生態系、社会・政治システム、人間の心のあり方を含めた、水の合理的・倫理的な分配・利用を実現する、従来の水管理とは質的に異なる新たな水のガバナンス。
森林と水に関する諸説を検証し、土地利用と水循環、利用可能な地表水・地下水量推定の新しい手法、経済開発・環境保全・社会的公平性・持続可能性を両立させる政策、流域圏での土地・水資源の適切な配分の枠組みを解説。
監訳者まえがきからの抜粋
21世紀は「水の世紀」とも言われる。
1995年に当時世界銀行副総裁であったセラゲルディンが「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀は水をめぐる争いの世紀になるだろう」と発言した。「世界の水危機」といった言葉も耳にするようになり、現状を放置すると、50年後には世界の水問題は危機的・破滅的状況に陥る可能性まで指摘されるようになった。
21世紀の地球で、温暖化とともに人類最大の脅威と言われる「水危機」を克服するために必要とされている革命的な意識改革と技術革新を総称して「青の革命」と呼ぶ。
1798年にマルサスが「人口は幾何級数的に増大するが、食糧は算術級数的にしか増加しない」と警告した。この「食糧危機」に対して人間は、灌漑による乾季や乾燥地での食糧生産、農薬や肥料による生産性向上、高収量の作物の開発などに成功し、結果として人口増加に見合う食糧の増産をある程度達成したことを「緑の革命」と呼んでいる。
人類史上画期的な出来事であったが、水や農薬や化学肥料を多用するやり方はさまざまな犠牲をともなった。
日本は、水に恵まれた国であり、森林に恵まれた国でもある。水資源はあまり気味であり、利用されずに放置されている森林が増えている。そのため、水危機や食糧危機と言われても、大多数の日本人にとっては、それは海の向こうの話にすぎず、深刻な問題としてはとらえられていない。
日本が水や森林に恵まれているのは、日本の人口が少ないからでもなく、日本人1人当たりの水や木材の使用量が少ないからでもない。
江戸時代には日本の水や森林は食糧や燃料の生産のために極限まで利用されており、そうしなければ人間は生きていけなかった。
日本の土地と水資源を最大限に利用して生産可能な食糧だけで養える人口は、江戸時代末期の推定人口(約3000万人)より少し多い程度でしかない、という試算がある。
現在、日本でその約4倍もの人間が生活できているのは、輸出元の国で水を利用して作られた食糧を大量に輸入しているからである。日本は食糧を輸入することで、仮想水、バーチャル・ウォーターを大量に輸入していることになり、輸出元の国の水資源に負担をかけている。
流域という言葉に対する人びとの認識が微妙に変わってきた。
かつて「流域」とは、水供給、灌漑、水力発電の目的で水を集めるための貯水池を建設する川の上流域を意味していた。
現在は、水循環の最小単位と考えられており、この単位が地球上の全地表面をくまなく覆う。水の需要が増加するにつれて、山間部の源流域だけでは必要量を満たせなくなるので、このような考え方に移行するのは避けられないことである。
水を再利用する必要が出てきたことや、新たな地下水源を見つける必要が生じてきたということは、私たちが地球上のあらゆる地表面を、水供給の場であると同時に汚濁水を受け入れる場としてもとらえるようになってきたことを意味している。
この新しい認識に立つと、人間の活動と環境をもはや無視するわけにはいかず、人間活動にかかわる問題も、環境にかかわる問題も、流域や水資源の管理という面からますます重要視されるようになってきている。
統合的土地・水資源管理(ILWRM)の概念は、気候変動や世界人口増加にともなう食糧問題は、将来的に「青の革命」が乗り越えなければいけない課題である。
【目次】
監訳者まえがき
日本語版序文
序章 革命
第1章 新たな理解――土地利用と水の相互作用――
異なる植生からの蒸発散
背丈の高い森林と背丈の低い農作物からの蒸発散が異なる主な理由/蒸発散量の測定方法
土地の劣化
土地劣化の原因/アジア:ヒマラヤ環境悪化理論/アフリカ:土地劣化の原因/土壌劣化の拡大と深刻さ/水による浸食/面状浸食/水路浸食/土砂移動/植生、森林、浸食/雨滴の大きさの変化/雨滴衝撃による浸食:観測例/雨滴衝撃による浸食:日本における研究例
土地利用、気候変動、そして水資源
第2章 森林と水――神話と俗説――
森林は降雨量を増加させるか?
森林は流出量を増加させるか?
森林は流出量を制御し乾季の流量維持に寄与するか?
森林は土壌浸食を減少させるか?
森林は洪水の発生を抑制するか?
森林は水を「浄化」し水質を向上させるか?
アグロフォレストリーは生産量を向上させるのか?
「古いパラダイム」からの脱却
第3章 水資源と「制限」概念――蒸発散量を推定する総合的アプローチ――
温帯湿潤気候:背丈の高い森林と背丈の低い植生
移流による制限/日射量と生理学的作用による制限
温帯乾燥気候:背丈の高い森林と背丈の低い植生
生理学的作用および土壌水分量による制限/日射量と土壌水分量による制限
熱帯乾燥気候:背丈の高い森林と背丈の低い植生
土壌水分/樹木の大きさ
熱帯湿潤気候:背丈の高い森林
雨滴サイズによる制限/日射量による制限
第4章 新たな理念
環境と初期の発展
ダブリン原則
経済発展と構造調整プログラム
水の価値/水の需要調整/経済財としての水/水に価格をつける/土地利用の価値
理念の実施
水は農業のためのものか、自然環境のためのものか?――世界の食糧需要を満たすために/統合的水資源管理(IWRM)に沿った農林業戦略/水配分の優先順位
世界ダム委員会―― 経済成長、社会的公平性、環境保全、政治的側面の融和
国連環境開発会議――ミレニアム開発目標(MDG)に向けて
ミレニアム開発目標
欧州水枠組指令
第5章 政治、権力、犠牲
流域開発計画――貧しい人の利益になるのか?
流域閉塞の原因/土壌水分保全――水の大口使用者として/林業――水の大口使用者として/灌漑――水の大口使用者として/流域閉塞による犠牲/関係者の対立――電力と気候変動/政府機関と援助機関にとって「好都合な定説」?/今後の展望
洪水の制御――林業関係者、環境保護主義者、土木事業関係者
水害と人びと/森林と水害――対照的な認識、知識、手法/俗説を正し、勢力争いを解消する――統合的洪水管理と統合的流域管理/統合的洪水管理に向けて/洪水・水害と新しい政策の開発
中国:世界最大の実験?――天然林保護計画と退耕還林計画
世界最大の環境問題?――気候変動とクリーン開発メカニズム
流域環境機能の取引――貧しい者に恩恵はあるか?
犠牲を避けるには――政策の成果を評価する必要性
第6章 水資源をめぐる対立
マラウィ:土地利用形態の変化と湖の水位
インド:ユーカリ、灌漑、水力発電、水資源
ユーカリの問題/土地利用と水資源についてのカルナータカ州での現地調査
イギリス低地における対立:樹木と水不足
ニュージーランド:水問題と土地利用
水問題のとらえ方/土地利用形態の変化とその影響
日本:破綻しかけの財政、公共事業、緑のダム
実情――何がなんでも公共事業/土木工事と自然環境・森林の対立/洪水対策を統合的に推進する
第7章 統合的土地・水資源管理(ILWRM)
概念と原則
土地と水のガバナンス
統合的土地・水資源管理(ILWRM)の方法論
「緑の水」と「青の水」の定義/世界の食糧需要を満たすのに必要な水の量を推定するための「緑の水と青の水」の取り組み/緑の水政策の手段/配分の公平性/水配分、トレード・オフ、交渉理論
人間にかかわる側面に対応する「ソフト」なツール
参加型アプローチ/土着の知、地域特有の情報
意思決定支援のための情報技術(IT)
ILWRMのための意思決定支援システム(DDS)/NELUP意思決定支援システム/意思決定支援、協議支援、EXCLAIM普及ツール
行政組織と学術機関の橋渡し
青の革命――将来展望
神話に対抗するための研究/開発計画を成功させるための情報共有/開発の振り子の方向を変える